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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)2375号 判決 1982年8月25日

原告

佐藤達也

外一二名

以上一三名訴訟代理人

柘植錠二

被告

川瀬甲子

右訴訟代理人

石川貞行

主文

原告らが別紙第一目録記載の土地につき、別紙第二目録記載の各土地のために通行地役権を有することを確認する。

被告は原告らが別紙第一目録記載の土地を通行することを妨害してはならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判<省略>

第二  当事者双方の事実の主張

一  原告らの請求原因

(一)  原告らは別紙第二目録記載の各土地を同目録記載のとおり所有しているものであるが、その所有権取得の経過及び土地の利用占有状況は次のとおりである。

1 原告佐藤達也

同原告は訴外佐藤勝正と二人で訴外木下勝義から昭和三七年一二月八日同人所有の一七八四番の一宅地203.93平方メートルを売買により取得し(持分二分一宛)、さらに翌三八年九月一二日佐藤勝正の持分を買受け、全所有権を取得した。現在同原告は右土地を駐車場として、原告舟橋所有地上の建物の賃借人である訴外日本ペイント代理店野口商店(高橋寿)及び飲食業「やつこ」こと木浪信子に賃貸している。

2 原告松本幸夫

同原告は一七八四番の五宅地102.97平方メートルを木下から昭和三七年一二月八日売買により取得し、同地上に昭和三九年八月ころ建物を新築し、現在に至るまでここに居住している。

3 原告今枝誠治

同原告は一七八四番六宅地102.97平方メートルを木下より昭和三九年一月六日に分譲を受けていた訴外佐野直吉から、昭和五三年二月二三日同地上に存した木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟とともに買受け、そのころからこれに居住しているものである。

4 原告河合孝治

同原告は一七八四番の七宅地102.97平方メートルを木下から昭和三八年一一月一二日に買受け、同地上に昭和四五年一〇月ころ建物を新築し、これを第三者に賃貸しているものである。

5 原告三宅新蔵

同原告は一七八四番の八宅地128.85平方メートルを昭和三九年三月一八日木下から買受け、昭和四一年一月ころ同土地上に建物を建て現在に至るまでこれに居住している。

6 原告西田清

同原告は一七八四番の九宅地101.12平方メートルを木下より昭和三七年一二月一二日に買受けた訴外西田和彦より昭和四六年五月二八日売買により取得し、同地上に建物を建てこれを訴外坂本昭夫に賃貸しているものである。

7 原告玉置いわえ

同原告は一七八四番の一〇宅地110.97平方メートルを昭和四〇年二月二二日木下から買受け、同地上に昭和四〇年二月ころ建物を建て、現在に至るまでこれに居住している。

8 原告山口恒生

同原告は一七八四番の一一の宅地128.49平方メートルを昭和三八年一一月二〇日木下から買受け、同土地上に昭和三九年一〇月ころ建物を建て現在までこれに居住している。

9 原告鈴木英昭

同原告は一七八四番の一二及び一三宅地135.30平方メートル及び168.23平方メートルを昭和三七年一二月一〇日木下から買受け、昭和四四年四月ころ同土地上に建物を建て現在に至るまでこれに居住している。

10 原告舟橋鈴子

同原告は一七八四番の一四宅地90.61平方メートルを木下から昭和三八年一二月二四日に分譲を受けた訴外桑山誠一、同人からさらにこれを買受けた訴外鬼頭源治より、昭和四三年四月三日その地上建物とともに買受け、そのころよりこの建物を他に賃貸しているものである。

11 原告今枝功

同原告は一七八四番の一五宅地114.71平方メートルを昭和三七年一二月二七日木下から買受け、同土地上に昭和三八年二月ころ建物を建て現在に至るまでこれに居住している。

12 原告安福正義

同原告は一七八四番の一六宅地一二〇平方メートルを木下から昭和三八年八月九日に分譲をうけた訴外伊藤広吉、同人からさらにこれを買受けた同沢野功より昭和四八年三月六日買受け、現在駐車場として第三者に賃貸している。

13 原告渡辺久司

同原告は一七八四番の一七宅地137.11平方メートルを木下から昭和三七年一二月一八日に買受けた訴外中村道男より昭和四〇年三月一五日これを買受け、同土地を駐車場として第三者に賃貸している。

(二)  別紙第一、第二目録記載の各土地(第一目録記載の土地を以下本件土地といい、第二目録記載の土地を以下第二土地という)はもと訴外落合環の所有であつたところ、昭和三七年一二月五日木下勝義がこれを買受けたうえ、第二土地を一四区画に分割して原告らに分譲し、被分譲者が公道に至る通路とするため本件土地に通行路を開設し、被分譲者が自由に通行してもよい旨約した。即ち、木下は右分譲に際し被分譲者との間に第二土地を要役地とし、本件土地を承役地とする無償無期限の通行地役権設定契約を黙示的に締結したものである。ただ原告らの中には木下から分譲をうけずに当初の被分譲者ないしはその後の取得者からこれらの土地を譲りうけたものもいるが、木下勝義はあらかじめ通行地役権の承継を承認していたから、これらの原告も右土地を譲りうけることにより地役権者の地位を承継したものである。

(三)  かりに、右主張が認められないとしても、原告ら及びその前主は昭和三七年一二月ころから現在に至るまで、本件土地を自己のために通行の用に供してきたものであり、この点につき何らの過失もなかつた。また、この間に所有権の変動があつたものについては、新所有者が前主の地位を承継し、前主同様本件土地を通行してきたものである。従つて後記一覧表記載のとおり通行開始から起算して一〇年を経過した時点において、原告らはその所有にかかる第二土地を要役地とし、本件土地を承役地とする通行地役権をそれぞれ時効取得したものである。そこで原告らはこれを援用する。

一覧表

原告名   通行開始年月日     時効完成年月日

1 佐藤達也 昭和三七年一二月八日  昭和四七年一二月八日

2 松本幸夫 昭和三七年一二月八日  昭和四七年一二月八日

3 今枝誠治 昭和三九年一月六日   昭和四九年一月六日

4 河合孝治 昭和三八年一一月一二日 昭和四八年一一月一二日

5 三宅新蔵 昭和三九年三月一八日  昭和四九年三月一八日

6 西田清 昭和三七年一二月一二日 昭和四七年一二月一二日

7 玉置いわえ 昭和四〇年二月二二日  昭和五〇年二月二二日

8 山口恒生 昭和三八年一一月二〇日 昭和四八年一一月二〇日

9 鈴木英昭 昭和三七年一二月一〇日 昭和四七年一二月一〇日

10 舟橋鈴子 昭和三八年一二月二四日 昭和四八年一二月二四日

11 今枝功 昭和三七年一二月二七日 昭和四七年一二月二七日

12 安福正義 昭和三八年八月九日   昭和四八年八月九日

13 渡辺久司 昭和三七年一二月一八日 昭和四七年一二月一八日

(四)  以上の各主張が認められないとしても、原告らは本件土地に通行権を有している。即ち、愛知県小牧市は昭和五三年一〇月二三日付で本件土地につき道路の区域決定をしたこの決定処分により、原告らは本件土地を一般公衆として通行できるものであり、これは法が一般公衆に対して付与した人格上の利益であるとともに私人の日常生活上必須な通行権益であつて、民法上保護に値する自由権(人格権)に属するものである。

(五)  しかるに、被告は本件土地上の一部に建物(店舗付住宅)を建築し原告らの通行を妨害しようとしている。

(六)  被告は前記のとおり本件土地上に店舗付住宅を建築し、原告らの通行を妨害しようとしているが、これは権利の濫用であつて許されない。即ち、原告らは本件訴の提起前より、またその後においても円満な解決を求めて、本件土地を適正な価格で買取りたい旨申入れてきたが、被告は法外な価格による買取りを要求し、不当な利益を獲得する目的で右のとおり建物を建築しようとするものだからである。

(七)  よつて、原告らは被告に対し、黙示の通行地役権設定契約あるいは通行地役権の時効取得にもとづいて本件土地に通行地役権の存在することの確認と通行の妨害排除を、予備的に道路の区域決定あるいは権利濫用を理由に本件土地につき通行の妨害排除を求めるものである。

二  被告の答弁並びに抗弁

(一)  請求原因事実中、原告らが第二土地中それぞれの主張にかかる各土地を所有していること、右各土地の所有占有及びその承継関係が原告ら主張のとおりであること、本件土地及び第二土地がもと落合環の所有であつたところ、昭和三七年一二月五日木下勝義がこれを買受けたうえ、第二土地を一四区画に分割して原告らに分譲したこと、原告らが本件土地を通行の用に供してきたこと、本件土地につき原告ら主張のように小牧市の道路区域決定がなされたこと、被告が本件土地上の一部に建物を建築しようとしていることの各事実は認めるが、木下が本件土地につき道路として自由に使用してもよい旨約したとの事実は不知。本件土地につき、原告らと木下間で原告主張の黙示の地役権設定契約が結ばれたこと、原告ら木下からの当初の被分譲者が、本件土地を自己のために通行の用を供した点に過失がなかつたとの各事実はいずれも否認する。原告らが本件土地につき通行地役権を時効取得したとの点は争う。また道路の区域決定に伴なう法律上の主張及び権利濫用の主張はいずれも争う。原告佐藤達也、同鈴木英昭の所有地は公道に面しており本件土地を通路として使用する必要は全くなく、そのこと自体から両原告の請求は理由がない。

(二)  被告は本件土地の前所有者である訴外有限会社東屋金物店に対し債権を有していたが、同会社が昭和四五年一月に倒産したことから、被告はその債権の代物弁済として本件土地を取得したもので、相手方の登記の欠缺を主張する正当利益を有するものである。

(三)  かりに原告らが時効取得の要件を備えたとしても、被告は右代物弁済を原因として、本件土地につき昭和四五年一一月七日所有権移転登記手続を経由した。

(四)  原告主張の道路の区域決定は昭和五三年一〇月二三日であり、その告示期間中である同年一〇月二六日に被告は愛知県から建築確認をうけたものであるから、道路の区域決定があつたからといつて、原告らに通行権が生ずるものではない。

(五)  被告は本件土地の所有権を取得した際には、その地形を知らなかつたが、その後これが原告らの通路に使用されていることが判明したのでその買取り方を原告らに要請したところ、原告らにその意思がなかつたことから、原告としても止むなく、本件土地の一部に建物(店舗)を建築することにし、前記建築確認をうけたものである。従つて、原告らの権利濫用の主張は理由がない。

三  抗弁に対する原告らの答弁並びに再抗弁

(一)  原告らはその主張にかかる通行地役権につき未だ登記手続を経ていないが、被告は登記の欠缺をもつてその対抗力を否定する正当な利益を有する第三者に該らない。即ち、被告は本件土地を有限会社東屋金物店に対する債権の回収として同金物店から代物弁済により安価に取得したのであるが、その際本件土地が道路として使用されており、従つて本件土地の所有者は原告らの通行を受忍し、これを妨害してはならない義務を負うことを知りながら、原告らに対し不当な価格で買取らせる目的で本件土地の所有権を取得したものだからである。

(二)  被告が本件土地につきその主張の時期に所有権移転登記手続をしたことは認める。しかし、原告らが取得時効の完成により通行地役権を取得したのは前記主張の時期であり、これはいずれも被告が所有権移転登記をした後であるからこれによつて原告らの取得時効の完成が妨げられることはない。

四  再抗弁に対する被告の認容

被告が背信的悪意者であるとの主張事実は否認する。

第三  証拠関係<省略>

理由

一原告らが第二土地の各土地を所有していること、原告らの右土地の所有占有並びにその承継関係が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

二そこで、原告らの通行地役権の主張について検討する。

<証拠>によると以下の事実が認められる。

木下勝義は、昭和三七年一二月当時本件土地及び第二土地を所有していたが、第二土地を一四区画に分割し、本件土地を右一四区画の土地から公道へ通じ、また右各土地相互間の往来に供する道路用地としたうえ、区画割りした一四区画の土地を分譲販売したこと、本件土地はコの字型をして東西二個所で公道に接しており、その全長は約一一〇メートル、幅員は約3.6メートルから4メートルであること、この一四区画の土地は公道に面した三区画を除いては公道へ出るために本件土地を通らねばならず、各土地相互間の往来にも本件土地を通行しなければならないこと、原告佐藤は、昭和三七年十二月これを購入するに際し、分譲の仲介にあたつた訴外明治不動産の担当者に通路の点を確認したところ、同不動産より「本件土地は私道であるが公道にする申請手続中であるから自由に使用されても異議はない」旨記載された所有者木下勝義名義の誓約書と題する書面をわたされたこと、また、原告松本も昭和三七年一二月に木下から分譲をうけた際、やはり明治不動産の担当者から本件土地は将来公道になるとの説明をうけたこと、その後第二土地の各区画を買受けたり、そのものから賃借した人達は本件土地を公道へ通じる道路として、あるいは各区画土地相互間の往来のために通行してきたけれども、これに対し誰からも異議や苦情をうけなかつたが、後記認定のとおり、被告が昭和四五年に本件土地の所有権を取得したことから昭和四七年九月原告らに対し本件土地の買取方を求める調停の申立がなされたこと、以上の各事実が認められる。

右の事実からすると、本件土地と第二土地の所有者であり、かつ第二土地の分譲者であつた木下勝義とその購入者らとの間に黙示の意思表示によつて通行地役権の設定があつたと認められる。即ち、一定区域の土地所有者がこれを区画割りしたうえ、各区画を分譲し、併せて分譲地から公道へ出るため、あるいは分譲地相互間の往来のための道路をもうけ、その部分の所有権を自らに留保した場合には、格別の事情のない限り、各分譲地のために所有権を留保した道路部分に通行地役権を設定したものとみるのが相当であり、本件においては、本件土地を前記通行の用に充てるために所有者木下勝義が所有権を留保したうえ、期間を本件土地が公道になる迄として、本件土地につき第二土地のため通行地役権を設定したものである。ただ、<証拠>によると、本件土地はその後木下勝義から訴外田中大造へ譲渡された事実が認められるが、この事実も通行地役権の設定を消極に解する前記格別の事情には該らないとすれば、第二土地の所有者である原告らのうち一部のものは木下との契約によつて、また一部のものは要役地の所有権を譲受けるに際し右地役権者の地位も併せて譲受けることによつて、それぞれ本件土地についての通行地役権を取得したものである。

三そして、乙第一号証、被告本人尋問の結果によると、本件土地は木下勝義から訴外田中大造、同小桜商事株式会社、同有限会社東屋金物店へと移転したが被告は有限会社東屋金物店に対し金三八〇万円の債権を有していたところ、昭和四五年同会社が倒産したことから、本件土地の地形も充分調査しないまま右債権回収のため代物弁済としてこれを取得したことが認められる。従つて、被告は木下から通行地役権の設定をうけたと主張する原告らに対し登記の欠缺を主張する正当利益を有するものというべきところ、原告らは前記通行地役権につきその設定登記をしたとの事実を主張せず、被告が背信的悪意者であるから登記がなくても右地役権の存在を被告に対抗できると抗弁する。しかし、被告の所有権取得の経緯は右認定のとおりであり、本件全証拠によつても被告が原告らにおいて地役権設定登記を経由していないことに乗じ、原告らの通行地役権を侵害し、その通行を妨害しようとの意図で本件土地の所有権を取得したものであると認定すべき証拠のないことからすれば、被告をもつて原告らが登記なくして地役権を対抗できる背信的悪意者であるとすることはできない。従つて、原告らは前記通行地役権を本件土地につき所有権を取得した被告に対し対抗することはできないところである。

四次に、原告らによる通行地役権の時効取得について検討する。

前項認定のとおり、木下勝義が原告らに第二土地を分譲した時点において、本件土地に通行地役権を設定したのであるが、原告らは前記事由でこれを被告に対し主張できないわけであるから、原告らは時効取得の要件を備えれば時効により通行地役権を取得することができる。そして、原告らあるいはその前主が原告ら主張のとおり第二土地の各区画を所有占有してきたこと及び原告らが本件土地を通行の用に供してきたことは当事者間に争いがなく、これに<証拠>並びに弁論の全趣旨を加えて考えると、原告らは、自己単独であるいは自己とその前主との通行期間をとおして(但し、原告今枝誠治についてはその前主のみ)請求原因(三)項の一覧表記載のとおりの期間本件土地を通行してきたことが認められ、また第二土地が分譲され、本件土地がこれら分譲地から公道に至り、あるいは分譲地相互間の往来のために道路に充てられた経緯並びに本件土地の形状に徴すると、原告らの一部を含む木下からの最初の被分譲者が第二土地の所有権を取得し通行を開始した時点において、それぞれ本件土地に通行地役権があると信じ、またそう信じることにつき過失はなかつたと認められる。さらに、これら被分譲者及びその承継人の通行が自己のためにする意思で平穏公然になされてきたことは法律上推定され、これを覆えすべき証拠はない。ただ本件土地は、その所有者であつた木下によつて、道路とされたのであつて、要役地所有者が開設した道路ではないけれども、本件土地の道路開設の経緯本件土地の形状、その後の通行状況照して明らかなとおり、本件土地は木下が単に情誼や人情から第二土地購入者の通行を容認したというものではなく、本件土地を道路用地に充てることによつて初めて第二土地の分譲ができたのであり一方第二土地の各所有者もたまたま便宜上ここを通行していたというのではなく、これを利用することによつてのみ、公道及び他の区画の土地へ行くことができた実情にあつたのであり、加えて、前記甲第四号証の二ないし七及び弁論の全趣旨によると、本件土地が道路とされて以来今日迄道路の現状を保つている事実が認められるが、これは要役地である第二土地の各所有者によつて道路として維持されていることによるものと推認されることからして、本件通行地役権においては継続かつ表現の要件を具備するものということができる。とすれば、原告らないしはその前主が第二土地の各区画の所有権を取得し、本件土地の通行をはじめてから一〇年を経過した前記一覧表の時効完成年月日の欄記載の時点において、第二土地のそれぞれの土地を要役地とし、本件土地を承役地とする通行地役権の取得時効が完成したというべく、これはいずれも被告が本件土地につき所有権移転登記を経由したこと当事者間に争いがない昭和四五年一一月七日より後であるから、原告らは被告の右所有権移転登記に拘らず、時効完成時の本件土地の所有者である被告に対しこの時効取得を主張することができるものである。そして、原告らが当審第一回口頭弁論期日において右時効を援用したことは記録上明らかであるから、原告らは本件土地につき、第二土地の各土地のための通行地役権を時効取得したといわねばならない。なお、原告今枝誠治については、同原告の主張するところによると、その時効完成日である昭和四九年一月六日以後である昭和五三年二月二三日に第二土地3の土地の所有権を取得したというのである(同日、同原告がこの所有権を取得したことは当事者間に争いがない)。とすると、同原告は所有権以外の財産権を自ら行使する以前に時効期間が完成していたものであるが、同原告は、自己の権利行使期間と前主のそれを併せて主張しており、この合算された期間は一つの継続した期間と目すべきものであるから、同原告においても自らの権利行使期間に時効が完成した場合と同様にこれを援用することができ、これによつて他の原告と同じく通行地役権を時効取得したものである。

五被告が本件土地上の一部に建物を建築しようとしていることは当事者間に争いがなく、その場所は<証拠>によれば、本件土地のうち東側の公道に接する部分で、ほぼ本件土地の幅員一杯に奥行17.8メートル位の範囲であることが認められ、これが建築されれば原告らの通行地役権の行使による通行が妨害されることは明らかであるからその妨害排除を請求することができる。なお、第二土地のうち三区画は公道に面しているのであるが、これらの部分の所有者である原告佐藤達也、同鈴木英昭らも通行地役権を時効取得しており、第二土地の他の原告所有地への通行に右建築予定部分を通行することがあるから他の原告同様妨害排除請求権を有することは当然である。

六以上判断のとおり、原告らは本件土地につきその主張にかかる通行地役権を時効取得しており、これにもとづき被告の建物建築に対し通行の妨害排除請求権を有するから、原告らのその余の請求について判断するまでもなく、原告らの通行地役権の確認請求並びに妨害排除請求はすべて理由がある。よつて、これを正当として認容することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(宮本増)

第一目録、第二目録<省略>

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